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「心配してたんだよ、小野田さん」 「盲腸? あぁ、そういえば私の知り合いもさぁ……」 「入院中、暇だったんじゃない?」 「よかったね、体育祭出られるんだ」 「あぁ、そっか。そうだよね、走るのは控えたほうがいいから、走らない種目だけか。代わりの人、あたらないとね」 「そうそう、うちのクラスの応援の仕方、女子で集まって考えたんだけど、こうやってハチマキを振って……」 「そういえば見た? 昨日の最終回? マジでないよね、あのラスト」 「私、古文の訳、今日当たりそうなんだった。ヤバ」   入院を終えて学校に復帰すると、病室の静けさに慣れてしまったのか、周りの女子たちの声がすべて騒音のように聞こえた。   私の席の周りに椅子をくっつけて、途切れずに話を続ける徳原さんと谷本さん。めまぐるしく移り変わる話題についていけず、私はひたすら相槌と作り笑顔を繰り返す。 「でさ、小野田さん。彼氏とはどうなの? さすがに心配してお見舞いに駆けつけてくれたんじゃない?」 徳原さんの言葉に、私は肯定も否定もせずに「ハハ」と乾いた声を出す。 彼女は、「ちょっと~、教えてくれてもいいじゃん、友達なんだから」と私の腕を小突いた。 病み上がりだからだろうか。お腹の痛みはないけれど、貧血気味で目眩がする。教室の中の様子も、まるでテレビドラマのように現実味がない。 「倫ちゃん」   そんな中、自分を呼ぶ声に顔を上げると、甲斐くんが立っていた。 徳原さんも谷本さんも、その大きな影に会話を中断して見上げる。 「ちょっといい?」   廊下の方へ親指を指して、甲斐くんは顔を傾けた。普段ならひとりでいる時にしか話しかけてこない甲斐くんに、私はちょっと周りを気にしつつ、 「……うん」 と返事をして椅子を引いた。
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