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「小野田倫です。よろしくお願いします」   背後の席から、緊張で少し上擦った声が聞こえる。まばらな拍手の後で、椅子に座る音が小さく響いた。 高2になった俺は、倫と同じクラスになった。しかも、真智も一緒だ。複雑すぎる環境と心持ちに、大きなため息をつく。   午前中で終わった始業式とホームルーム。俺は、同じクラスになったバスケ部仲間の和田 治基(わだ はるき)の席の近くにいた。窓際なので壁に背を預け、対角線上の席で帰り支度をしている小野田倫を眺める。前後の席では、直視するのもはばかられたからだ。   公園で遠目には見ていたものの、予想以上に小さな背丈、サラサラで整ったボブの栗色の髪。特別美人というわけではないけれど、肌の白さのせいだろうか、唇に赤みがさしていて、まるで人形みたいだと思った。   周りを見回して、とくに誰と挨拶を交わすでもなく教室を出ていった彼女。よそよそしくて、どこか頼りなげだ。 「何? クラスの女子の物色してんの? いい子でもいた?」   和田に言われて「いや」と短く返事をした俺は、顎を上げて頭をコツリと壁に当てた。
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