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「ごめん、そこ、私の席なんだ」   翌日、初めて俺に話しかけてきた倫の顔は笑顔だった。 「あぁ、俺、ひとつ前だった」 俺はわざと彼女の椅子に座っていた。べつに友達がいないということに同情したわけじゃない。前後の席のクラスメイトとして、話をするきっかけを作っただけ。そして、仲良くなったほうが、メールでのボロが出ないと思っただけだ。 「おい、謝れよ、甲斐」   和田に言われ、〝倫〟と呼び捨てにしてしまいそうになりながら、 「ごめんね、倫ちゃん」 と言う。 倫は「いいよ」と微笑んで、俺がどいた席に座った。当たり前だけれど、公園で双子たちに見せるものとはまるで違う顔だった。 「…………」   俺は自分の椅子に横向きに座って、和田が好きなインディーズバンドのライブに行ったという話を上の空で聞いていた。そして、今まで史上一番近くで彼女の姿を視界の隅に入れる。 やはり、色が白い。全体的に華奢で小さくて、なんだか子どもみたいだ。 「…………」 俺は、この子とメールをしているのか……。 そう思うと、また胸の中がざわつく。そして、それに紛れて妙な高揚感というか好奇心も頭をもたげた。   視線に気付いて顔を向ければ、あれ以来話していない真智が、こちらに向けていた顔をふいっと戻した。真智と同じクラスだということも、俺の心をざわつかせる原因の一端だった。
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