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「道孝がこっちに来れなくても、私が出向くつもりでバイトはしてる」
そんな話を倫から聞いたのは、5月になったある日。夜遅くに駅の近くで見かけた倫に声をかけ、家まで送っていった時だった。聞けば、駅裏のファミレスで週2で入っているらしい。目的は……道孝に会うための旅費。
少し照れくさそうに答えた倫に、俺は言葉を失った。まさか、自分から会いにいこうとしているとは考えていなかったからだ。
そんなことをしても無駄だよ。だって、道孝はもういないんだから。
そう言ってしまいたい気持ちを抑えて、
「普通、男にさせるでしょ、そういうのは」
と、驚きを気取らせないような意見に転換させる。
「そんなことないよ。男だからとか女だからとか、おかしくない? それに私がそうしたいからしてるの」
いつから続けているのだろうか、そんな無意味な努力を。
健気で疑うことを知らず、会えない彼氏を想い続けることは、それはそれは美しい話なのだろう。けれどもそれは、罪悪感に押しつぶされそうな俺の心を、ギチギチと縛り上げていく。道孝の優しさに溢れているはずの遺言が、まるで呪縛のように俺の視界に靄をかけていく。
「甲斐くんて、もしかして彼女いる?」
「うん、いる」
「やっぱり。じゃあ彼女さんとのなれそめも聞かせてよ」
「俺はいいよ」
「なんで? ずるいよ」
「道ならぬ交際だし、呪われてるから」
通りに並ぶ店の灯りの逆光の中、倫の表情がよく見えない。いや、ただ、直視できなかったのかもしれない。
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