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道孝の生前の意向とおばさんたちの判断で、そのことは親戚や親しい一部の人間にしか知らされず、少ない人数で彼の死を悼んだ。
「風が強いわね」
「あぁ……」
葬儀場の敷地内、桜の花びらが風に舞うのを見ながら、制服姿の俺たちは石を削って作られたベンチに座っていた。親しい一部の人間には、真智とその母親も含まれていた。母親同士が仲がよかったということもあるが、真智と俺と道孝は小さい頃からよく遊んでいたからだ。
「なんか……嘘みたいだな。12月に手術して、快方へ向かうと思ってたのに。こんな……たった数ヶ月で」
「みんなに平等に訪れることが、少し早まっただけだわ」
「……ドライだな、あいかわらず」
「そう思わないと悔しくて腹立たしくて、どうしようもない気持ちになるもの」
「…………」
道孝は、もともとの持病であった心臓の病気が悪化して、昨年12月の冬休みに、名医がいるという九州の有名な病院で手術をした。けれども退院して普通に学校に通っていた1月の終わりに不調を訴え、検査の結果、再手術としばらくの入院が必要だと伝えられた。長期入院の覚悟をしていてくださいと言われたため、おばさんと道孝だけが病院の近くに住む俺らのばあちゃんちに移り住んだ。
術後の経過は悪かった。入院事情は知っていたものの、そんなに悪いと思っていなかった俺は、親に連れられてお見舞いに行き、その痩せ方に面食らった。否が応でも彼の死の近さを悟らずにはいられなかったけれど、どうしても認めたくなくて、遺言めいた頼みにも首を縦に振ることができなかったのだ。
「それじゃ……先に行くわ」
真智と別れた後、おばさんに俺宛てだという道孝からの手紙をもらった。
内容は分かっていた。だから読みたくなかった。そんなことよりも、この空虚な気持ちを何かで埋めてほしかった。
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