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「ふざけんな、道孝」
初めから、受けるべきじゃなかった、こんな話。
何が約束だ。何が、俺にしか頼めない、だ。ただの、あいつのエゴと自己満足じゃないか。
「お前のせいだろーが。こんなの、全部」
泣いてくれたほうがマシなくらいの絶望の顔。あんな顔をさせたいわけじゃなかった。
「こんなこと、させんなよ」
俺だって、倫に笑っていてほしかった。
「何死んでん……だよっ」
ただ、笑っていてほしかったんだ、倫に。
「こんなの、最初から…………最初からっ………………」
力を込めていた口元が震えに負けて、だらしなく嗚咽を漏らした。
限界だった。約束も恋心もすべて取っ払った上で、倫にあんな顔をさせてしまったことが、何よりも辛くてどうしようもなかった。
笑っていたおじさんたちが、この細い路地を覗き込み、不審そうな顔で通り過ぎていった。画材屋さんからは聞き覚えのある曲がこぼれていた。病室で、彼女が口ずさんだ曲。欲しいものを聞いた時に倫が答えた「音楽」だった。
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