《甲斐 敦義》1

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  春休みももう終わりに近づいてきた頃、俺は、胸の内の重苦しさから逃れるように外へ出た。町をあてもなく歩いて、少し疲れた頃に柊ヶ丘公園の裏を通ったから、そこで休むことにした。   裏の入口から中に入って並木道を抜け、噴水や遊具のある広くて丸い広場へと出ると、小さな子どもたちが何組か遊んでいた。反対側に点在するベンチには母親や父親が座って笑っていて、ほのぼのと幸せそうな雰囲気だ。俺はすぐそばのベンチに腰を下ろして、その様子をぼんやりと眺めることにした。 「倫ちゃんっ」   聞き覚えのある名前を小さい男の子が呼んだことで、俺は遊んでいる子どもたちの誰が言ったのかを探した。もう一度その名前が聞こえて特定できると、子どもたちの中に小柄だけれど高校生の女の子が混じっていることに気付く。高校生だと断定できたのは、俺が彼女のことを知っていたからだ。 小野田 倫。クラスは違うけれど、髪の色が明るくて目立ち、しかも道孝の彼女だと聞いていたから顔を覚えていた。 「…………」   言いようのない気持ちに苛まれる。 道孝の遺言は、いまだ実行していなかった。道孝からの手紙も、バッグの底に入れたままで、俺はそのままそのことを忘れようと努めていた。
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