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「冷たいよっ! 風邪ひくから離れようよ」
小野田倫が、子どもたちに注意する。そう言っているものの、一緒に噴水の水飛沫に興奮してはしゃいでいるさまは、子どもと変わらない。
「…………ハ」
あまりに無邪気な顔に、呆れとも悲しみとも同情ともとれない気持ちがわき起こる。
アンタの彼氏、死んだんだよ? なんでそんな……笑ってんだ?
涙がひと筋頬を伝っていた。パタッと水滴がジーンズの上に落ちたことでそのことに気付き、そういえば道孝が死んでから初めて流す涙だと思った。
「こらっ! 勇ってばっ」
キャハハハと逃げる子どもたちを追いかけて、クルクルと表情を変える小野田倫。男の子を捕まえて、今度は屈託のない笑顔で「捕まえたっ」と言った。
「…………あの顔を守れって?」
下唇を噛んで俯き必死に耐えるも、涙は後から後から溢れてくる。
正解なんて知っているんだ。今すぐ彼女に道孝の死を告げて、当然のように悲しんで泣いてもらう。それが彼女のためであるっていうことも。
「ふざけんな、アホ道孝」
俺は嗚咽を止められず、しばらく下を向いたまま動けなかった。ひっきりなしに聞こえる子どもたちの笑い声、走りまわる靴音を聞きながら、「ふざけんな……」とまた震える唇で呟いた。
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