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【今日さ、手を繋いで歩いてた勇と藍が転んで泥だらけで帰ったら、お母さんにこっぴどく怒られたよ。いつものように双子じゃなくて私が。藍はお気に入りのワンピースが汚れてずっと泣いてたんだけど、お薬曲歌ったら大丈夫だった。効果絶大】
「お薬曲…………って、なんだ?」
2日後、自分の部屋でベッドに横たわりながらケータイを見て、俺は首をひねる。早くもピンチがきた。
【大変だったね。お薬曲、やっぱりすごいね。なんていう曲名だったっけ?】
【わざと言ってるでしょ? たまに意地悪だよね、道孝。覚えてたらオルゴールを買いに行きたいよ。それより、結局春休みは会えずじまいだったね。夏には会えたらいいけどな。明後日から新学期、道孝も頑張ってね】
「あぶね……」
半日悩んで送った返信に、倫からのメールが速攻で返ってきた。
「〝夏には会えたらいいけどな〟……か」
その字の羅列をできるだけ意味を取らないように眺める。だって、こんなの、感情移入してしまったらおしまいだ。ただのゲームのように任務遂行しなければ、身も心ももたない。
「イブまでもつのかな、これ」
ケータイを手放し、寝転びながら両手で顔を覆ってそう呟くと、ノックの音と同時に、
「入るわよ」
との声が聞こえ、俺は瞼を開けた。
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