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《甲斐 敦義》1
『やってくれる?』
道孝はそう言った。そんなの知るかと思って、俺は、
『無理』
と返した。
『敦義にしか頼めないんだ』
『断る』
『そう言うと思ってたけど』
『じゃあ、なんで頼むんだよ』
『分かってるから』
『何が?』
『なんだかんだで結局、敦義はやってくれるってこと』
『やらねーって』
道孝との最後のやり取りはこれだった。
病院のベッドの上、窓からの光を背に姿勢よく座っている道孝は、穏やかな笑顔でイラつく俺を見ていた。話自体の意味不明さもだけれど、そんな悟りを開いたような顔をして淡々と話すさまは、何もかも諦めて何もかも受け入れているようで、一層俺の苛立ちを助長させた。
その3週間後だっただろうか。道孝は死んだ。
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