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道孝が……死んだ?
「そんなの、嘘だ」
『入院のためにこちらに越してきたんですけどね、術後の経過が悪くて』
道孝の祖母です、と言っていた人の電話の声が、耳に甦ってくる。足元が沼に沈んでいくみたいな錯覚とともに。
『3月に……』
耳鳴りのような、地響きのような、鈍い音がずっと頭の中で響き続けて、まるでその音に飲み込まれていくようだ。言われていることは理解できても、噛み合わない鍵と鍵穴のように、いつまでも読み込まれないソフトウェアのように、私の心がそれを認識しない。
だって…………。
「だって、会わなくてもずっと……メールで……繋がってた」
私は、散らかった部屋の隅に立てかけられている姿見の鏡に話しかける。
「私の中では、甲斐くんじゃなかった……」
その顔は、ひどい顔をしている。
「あれは道孝だったの」
迷子になったことが理解できていなくて、唖然として佇んでいるような。ひどく疲れてお腹が空いているのに、気力がなくて何も手に取れないような。
「道孝だった……」
涙は出なかった。こんな現実は……到底受け入れられなかった。
【クリスマスイブ。夜7時に駅前のイルミネーションツリーの前で待ち合わせをしよう】
そんなメールが届いたのは、その1週間後だった。
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