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甲斐くんが道孝になりすましてメールをしていた。それが分かったあの日から、1ヶ月が経った。あれ以来、甲斐くんとは話をしていない。視線すら合わせないようになった。これからもずっとこんな感じなのだろう。
ひとつだけ確かなことは、道孝にとっても甲斐くんにとっても、そんなひどいことができるくらい、私の存在は軽いものだったということだ。その事実だけで、もう……これ以上問い詰めようとする気も起きなかった。
「りーんちゃーん」
砂場で遊んでいるふたりが、こちらに手を振る。私は笑顔で手を振り返した。さっきまであんなに泣いていたくせに、と私は呆れてしまう。泣くことですっきりして、気持ちが切り替わったのだろうか。
「…………」
私は自分の顔に、そっと指をあててみた。きゅっと上がっている頬は、思いのほか硬かった。
「小野田さん?」
背後から呼びかけられた声と同時に、ワフッという鳴き声が聞こえた。振り返ると、柴犬のリードを引いた里平さんがいた。
「里平さん。……こんにちは。犬の散歩?」
「そうだけど、今日はバイトじゃないの?」
ふたりとも目を丸くしながら会話する。こんなところでばったり会うなんて初めてだったからだ。バイトが同じだった時以来の驚きだ。
「今日は、甥っ子たちの面倒を見てるから」
そう返して砂場を指差すと、里平さんは、「え?」という顔をした。私は、隣に座った里平さんに、自分の家族の説明をした。
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