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「偉いわね」
「そうかな?」
「私は犬の散歩ですらいやいややっているのに」
里平さんの連れていた犬は、ベンチの足にリードを括りつけられて、近くに散らばっているどんぐりの匂いをクンクン嗅いでいる。
12月の、昼間でも冷たさを帯びている風。木の陰になっているというのもあって、私たちは体を縮こませる。
「何か……進展があったの?」
里平さんは、空を見上げながら静かに聞いてきた。
「最近、敦義と話しているところ見ないし、小野田さんの顔も気持ち悪いわ」
細い目で隣の私を見て、里平さんは腕組みをする。彼女とこういうふうにゆっくり話すのは、体育祭以来だった。
「気持ち悪いって……」
「無理やり笑ってる感じ。あなたの周りの女子からは言われない?」
「…………言われないけど」
徳原さんや谷本さんたちのことを言っているのだろう。彼女たちは、自分の話か、その場にいない人の話しかしない。
私も彼女と同じように空を仰いだ。鰯雲が空を覆っていた。
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