《小野田(おのだ) 倫》8

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「甲斐くんと……キスした」 「…………」 「道孝と会って話をしようとしたら、甲斐くんが来た」 「…………」 「道孝と続けてたはずのメール……甲斐くんが代わりにやってた」   言葉にしたら、とても端的だった。私は、まるで他人事のように説明した。犬が移動して、リードがベンチの脚に巻き付く。目の前を、初老の夫婦が通り過ぎていった。 「それで?」 「……それだけ」 「そう」   腕を組んだままの里平さんは、噴水を眺めたままで短くそう言っただけだった。風が吹いて、里平さんのきれいな黒髪が横に流れて浮き上がる。私も、顔にかかった自分の髪を耳に掛けた。 里平さんは、もしかしたら知ってたのかもしれないと思った。だって、私が里平さんといる時に限って、甲斐くんは私たちの間に割り込んできた。脅されて口止めでもされていたのだろうか。今となっては、もうどうでもいいけれど。 「理由は聞かなかったの? 敦義に」 里平さんはそう言って、物憂げに目を伏せた。長い睫毛が細かい影を作る。 「聞いてない」 「なんで?」 「聞きたくない。もう……なんか、話したくないし」   私は、どうでもいいことだと自己暗示をかけるように、ふっと笑った。もう、終わったことにしたかった。
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