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駅前は、色とりどりのイルミネーションでライトアップされ、何年か前に見た時よりも華やかさを増していた。アーケードの天井にも、駅ビルの外壁にも、広場にも、街路樹にも、照明の花々が咲き誇っている。   その中でシンボルとでもいうかのように堂々とそびえているのは、ビルの2階くらいまである高さのイルミネーションツリー。雪や星に見立てたたくさんの装飾が施され、下から上からの豪華なライトアップで、見る人の目を楽しませていた。 人工のモミの木の先端が細かな違いの青を時間差でゆっくり光らせ、そこにまるで雪のような白がふんわり点滅し、時折グラデーションでゆっくりと移り変わっていく七色の光の筋が、その円柱を流れるようにこぼれていく。そのたびに、「うわぁ……」とため息のような声が人の群れの中から聞こえ、また大勢の笑い声や話し声に紛れていった。 このイルミネーションツリーはこのへんでは冬の名物で、よく待ち合わせ場所として使われている。今年もたくさんの白い息が行き交い、歩き続ける足が幾重にも重なって交差しては、右へ左へと急いでいる。 私は、その様子を、特設ベンチの横に佇んで眺めていた。 「…………」   通知音のしたケータイをかじかむ手で取って見れば、『寒いから早く帰っておいでね』と、お姉ちゃんからのメール。12月24日。今日は、友達とクリスマスパーティーだと言って、家を出てきた。黒のコートの下には、ネイビーのワンピース。去年の今日着るはずだった、一張羅の冬のデート服。 「きれいだなぁ……」   幸せの象徴のようなツリーを見上げて、私はその光の美しさにため息をこぼす。ちょうどベンチに座っていたカップルが席を立ったから、私は周りをきょろきょろと見てから、ちょこんと座ってみた。腰を下ろして見るツリーは、いっそう高く感じて迫力がある。流れてくる七色の光が、私にまで魔法をかけるような錯覚がした。  
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