エピローグ

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エピローグ

縦に伸びた水の柱が四方に散らばり、キラキラとその飛沫を輝かせている。ただそれだけの飾り気のない噴水で、飽きもせずにはしゃいでいる勇と藍。その姿を見ていると、目の前をモンシロチョウが横切っていった。   この間まで満開だった桜は、十分に私たちの目を楽しませてくれた後、先週末の雨で全部散った。代わりに柔らかそうな黄緑色の瑞々しい葉っぱが、ほんの少し顔を出している。 「りーんちゃーん」   大声で私の名を呼ぶのは、藍。スカートを揺らしながら風に煽られる水と戯れては、時折確かめるように私に手を振る。勇はというと、わざと濡れるようなところに行って、手で水を叩いて弾こうと夢中だ。 「だからね、困るのよ。倫とお母さんがぎくしゃくしてるの」 「…………」 「倫に無理させてたのも分かるし、悪いとも思ってる。でも、母親になってみるとね、お母さんを簡単に悪者にもできないのよ」 「分かってるってば、お姉ちゃん」   今日は、日曜日だ。この春休みに入る前にバイトを辞めた私は、お姉ちゃんと双子と一緒に、噴水公園に来ていた。おねえちゃんはさっきから、同じことを繰り返し繰り返し言ってくる。 「分かってるんだよ。それに、感謝もしてる。お母さんも人間だし、イライラすることがあるっていうのも分かる」   そこまで言うと、お姉ちゃんは鼻で息を吐いて、やれやれという顔をした。 「じゃあ、あれだね。反抗期ってやつ」 「反抗期?」 「倫は今、やっとお母さんに自己主張できるようになったんだよ。受け入れてほしい、の裏返し」 「…………」   お姉ちゃんは頭の後ろで手を組んで、ベンチに体重をかけて空を見た。そして、 「……そうね。大事な時期なのかも、今は。後になってから分かるけど」 と呟く。
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