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 まったく、これだから実家暮らしのやつは、とつい口から出そうになった。好きで実家から出たならまだしも、周りの友人たちと同じように、もう少し実家暮らしを謳歌するつもりでいたんだ。だけど、状況がそれを許さなかった。弟が大学受験で、勉強に集中したいとか言い出して、それまでシェアしていた部屋を結局兄貴の俺が譲らざるを得なかった。  社会人になったら自由にお金が使えると思っていたのに、家を出なきゃならなくなるなんてとんだ誤算だ。新しいバイクだって欲しかったのに。いざひとり暮らしを始めてみて分かったことだが、生活費って半端なくかかるんだ。新入社員の給料なんてたかが知れてる。一カ月暮らしてみたら、収支でとんとんだ。貯金なんてできやしない。もっと節約しないと……。二十二歳の社会人一年目の男が、いつのまにか子持ちの専業主婦のような思考になっていて、げんなりした。  生温いため息を零す隣で、吉田は呑気なものだ。 「俺もひとり暮らししてぇなぁ」  こっちは実家に戻りてぇ、とは言えない。 「だったら、吉田もひとり暮らしすればいいだろ」 「まあな」 「っていうかなんでそんなにひとり暮らしに憧れるんだよ」 「莫迦だなお前、ひとり暮らししたら、家に彼女連れ込めるだろ」 「ったく、お前の発想は下品だな」 「変な意味じゃねぇよ、もちろんそういう意味もあるけど……ほら、手料理とか作ってもらえるじゃん」     
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