千尋

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「圭介さん、結婚しないの?」 「そのまま返すよ」 「だって、相手いないもん」 「不思議だよなあ。こんなにいい女なのに」 「私はいい女なの? 恋愛に向いてないのかも」 好きになり方は、人それぞれだ。確かに恋愛に向いていない人もいるかも知れないが、先ほどの話から、恵子の場合は、いい人には出会っても本当に好きな相手に出会っていないだけの様な気がした。 「そんなことは無いと思うよ」 「慰め言わなくていいです。じゃあ、いい女だと思うなら、圭介さん、付き合って」冗談っぽく恵子が言った。 「シラフの時に言ってくれ」 「圭介さんの付き合ってる人って、どんな人? 素敵な人なんだろうなあ。写真見せて」 数秒間をおいて「いないよ」と答えた。嘘ではない。確かに素敵な人と付き合っていたが、今しがた振られた。 「え?」恵子は驚きの、でも、明るい表情をした。 「ホント?」 「うん、いない」 「もしかして、男性が好きなんですか?」まじめに訊いているのか冗談か解らなかったので、「いや、おそらく僕は、今は女性の方がいい」と答えた。 恵子は少し考え「じゃあ、付き合って?」今度はかなり真顔で言ったので、酔った上での冗談かどうか判断しかねた。 「え? マサカ。本気なのかい?」 「本気です」 「どうした? 寂しいから」 「好きだから」 告白されたのは意外だった。なんとなく好意は持ってくれているような気はしていたが、それは学校の先輩、または仕事の取引相手としての好意で、恋愛感情では無いと思っていた。 千尋とは圭介から声を掛け、付き合いが始まった。 恵子は声を掛けられた付き合いはすべて上手く行ってない。 たぶん、圭介は惚れた相手よりも、惚れられた相手と付き合う方が上手く行くのだろう。 恵子は惚れられた相手より、惚れた相手と付き合う方が上手く行くのかもしれない。 そう、思うと、恵子との付き合いは良い組み合わせのような気もしてきた。 まあ、お互いいい大人なのだし、そんなに慎重になることもないか。 恵子も嫌になれば千尋のように離れていくだろう。 そう思い、「うん、付き合ってみようか」と答えた。 「ホント? 圭介、嬉しい」とうとう呼び捨てになった。
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