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「ぐっ……はな、せ…っ!!」
やばい、やばいやばい―――のに、身体が動かない。
さっきまで『女の子だった』モノは一瞬で4足歩行の大きな獣に姿を変え、俺の腹の上に圧し掛かってきた。大声で叫ぼうとしても、鋭い爪が生えた前足で胸を踏まれると、口から悲鳴にもならない息が漏れるだけだ。重すぎる衝撃に、肋骨が軋んで音を立てる。痛くて苦しくて呼吸ができない……このままでは窒息してしまいそうだ。
ただ、白くなっていく頭で分かるのは―――あの女の子の形をしたモノの正体は、ヴィズだったということ。どこからか現れ、人間を襲う、化け物だったということだけだ。
「キテくれテ、ありがトウ、うレシい……」
「……ひっ!」
「いただきマス」
真っ暗でよく見えないが、獣の顔に付いた、3つの目だけが闇の中でもギラリと光って俺を見ている。獣の生臭くて熱い息が顔面にかかって、全身の皮膚がぞわりと泡立ったとき―――俺の脳に何かが浮かんだ。
『こんにちは。おじさんにも、その虫見せてよ。』
『うん、いいよ。』
『血も、吸っていい?』
『え?』
―――ああ、やめろ。これは思い出したらだめだ。7歳、公園、ラミア、掴まれた腕の感触、強い力、汗、黄ばんだ鋭い歯、みんな逃げろ、でも、待って、こわい、きもちわるい、だれか、だれかたすけ………
『ぎゃあっ!!』
「ギャアッ!!」
「!?」
―――突然、俺の腕を掴んでいたオッサンと、俺の上に乗っていた獣が吹き飛んだ。
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