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「げほっ、ごほっ、」
肺に酸素が急激に入ってきたせいで、ひどく咳き込む。耳につんざくように響いているのは、恐らくヴィズの叫び声だ。
なにが、どうなった?
起き上がって状況を確認しようとするが、すこし上半身を起こしただけで胸が痛くて倒れこんでしまう。
クラクラする視界を定めようと必死に瞬きを繰り返していると、顔のすぐ傍で雪を踏む音がした。
―――誰かが、俺を見下ろしている。
「おい、さっさと立て馬鹿。」
あまりに淡々とした声に思わず、分かってるんですけど起き上がれなくて……と言いかけたが、口から出るのは咳ばかりだ。
すると、小さなため息が聞こえたかと思ったら、いきなりコートの胸ぐらを掴まれ、地面から背中を引っ剥がされた。
「いっててて!!」
「ハイハイ、骨は折れてないから大丈夫だろ。」
いや、めっちゃ痛いんだけど!どんだけスパルタだよ!?
うっかり文句を言いそうになったが、それよりもヴィズだ。あの化け物、いったいどこに行ったんだろうか。俺もこの人も、早く逃げないと。
「あ、あの!女の子、化け物にっ、」
「ああ、ヴィズならもう始末しといた。」
「えっ?うそ、あなた1人で!?」
…嘘だろ?あれを?
思わず口をぱっかり開けたまま目の前の男を見上げると、暗くてよく見えないが「すげー間抜け面」と小さく噴き出しやがった。
男は俺の前にしゃがむと、さっき俺が女の子にしたみたいに、目線を合わせてくる。
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