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「…………。」
至近距離にきた男の顔を見たら、俺はまた固まってしまった。
仄かに緋色に光る目、すっと通った鼻筋、人形みたいに形のいい唇。程よくはねた、柔らかそうな髪をかけた耳にはピアスがいくつも光っている。
……暗くてはっきり見えないというのに、なんだこの溢れ出るイケメンオーラは。TVと雑誌とクラブと外国、どれが出身地ですか―――。
貧困なボキャブラリーを思いつく限り並べる俺の一方で、男は口元の笑みを引っ込めると、真面目な顔というより冷めた目つきになった。
「お前さ、危機感って知ってる? き・き・か・ん。」
「…はぁ?」
「ヴィズに食われに行くお人好しな馬鹿はどこの馬鹿かと思ったら、またお前か馬鹿。しかも同じ場所とかほんと……はぁー、馬鹿は脳ミソの代わりにバター入ってんの?」
「いや、それ溶けるよね?」
「もう溶けてるっつってんだよ。」
ちょっとストップ。―――待ってくれ、なんだこのイケメンは。一方的に罵られたと思ったら、今度はすごく哀れんだ目で見られているんだけど。
いくらなんでも初対面相手に失礼じゃないかと思う反面、自分がこの短時間で何回馬鹿と言われたのかをカウントしようとしているあたり、俺の脳ミソは本当にバターかもしれない。
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