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(廊下の窓も……特に変わったことはないな。)
相変わらず根っこがびっしり張り付いている廊下の窓を見上げながら、教室を一歩踏み出したその時―――ビチャッという音が響いた。
(……??)
自然と視線が移ったのは、廊下の最奥にある非常階段の扉だ。その前を……なんか、真っ黒い塊が動いている。天井に届きそうなくらい大きくて、グニョグニョと変則的な動きを繰り返しているそれは、子どものころ流行ったスライムのようだ。夏なんかだと、冷たくて気持ちいんだよな。でもあれは触るとネバネバしそうで嫌だな―――なんて呑気に考えていたら、黒い塊の表面に白い球が浮き出てきた。ぐるんと勢いよく回転したら模様が見えるようになって……ああいや違う、あれは……
「目玉。」
「ちょっ、こっち見てるんだけどーっ!やばいって!!」
俺たちが固まっている間にもゆっくりと、気持ち悪い粘着音を立てながらスライムが近づいてくる。1つしかない大きな目玉は左右にギョロギョロ動きながらも、俺達から視線を逸らすことはない。
『グ、ギギギギギギ……』
ビチャァ…と吐き気がしそうな音とともに、スライムがぽっかりと口を開ける。滴り落ちる黒い液体が廊下に跳ねて、そこら中に飛び散った。
(うえっ、なんかが腐ったみたいな臭い…!に、逃げなきゃ!)
だが、逃げようにも足を動かすのもやっとな俺達に出来ることと言えば、今出たばかりの教室へ後ずさりし、勢いよくドアを閉めるだけだった。気持ちばかりの防壁としてドアの前に机を置き、背中で押さえながら床にへたりこむ。
「お…おおおおい、今の見た!?なんかやばいのいたんだけど、ヴィズか!?」
「目玉。」
「犬飼?いぬか……おい、停止モードに入るんじゃねー!!しっかりしろ、逃げる方法を考えなきゃ、今世最後の言葉が『目玉』になっちゃうぞ!さっきまでの度胸はどうしたんだよー!」
これは犬飼がバグってる時におこる現象だ。宙を見たまま『めだま』しか言わない友人を必死に揺らすと、ようやく眼鏡越しに目が合った。
「…逃げろ。」
「へ?」
「日野、俺を置いて早く逃げろ。お前1人なら走れるだろう。」
「嫌だよ!逃げるなら一緒にって言っただろ!!」
そう叫んだ直後、ビチャッという音が薄い壁の向こうから聞こえてきた。冷や汗がどっと背中を伝う―――まずい、近くまで来てる!
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