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急いで犬飼の腕を掴んで立たせようとしたが、逆に腕を振り払われてしまった。唖然とする俺の一方、犬飼はすました顔で俺を見上げる。
「大丈夫だ。ここが幻覚なら、きっとアレに捕まっても死なない。」
「そっ、そんなの分かんねーだろ!だって…俺たちは身体ごと『こっち』に来てるってヴィズが言ってたんだぞ!」
勢いで口から飛び出た言葉だったけど、後からそうだそうだ!と心の声が叫ぶ。ここに来てすぐ会った『俺』が、まだヴィズの力が不十分だから、種を植え付けた人間を身体ごと取り込むしか出来ないと言っていたじゃないか。
つまり、いくらここにあるモノ全てが幻覚だとしても、俺達の身体は幻覚じゃないんだ。現実世界で埋められた頭の中の『種』が侵食するのに合わせて、身体が動かなくなっているのがその証拠だ。
「夢の中じゃないんだ。きっと本当に怪我をするんだよ、犬飼。お前がそれに気づいてない訳がない。」
「………。だからこそ生存率が高い選択肢を取るべきだ。早く行け。」
「こんのっ…分からず屋の石頭!危険だって分かってて置いていけるかバカ!勉強ができるのにバカ!もういい、お前がそう言うなら俺もここから動かな――ッ!?」
一瞬、何が起こったのか分からなかった―――すごく強い力に背中を突き飛ばされたかと思ったら、いつの間にか根が覆う床にひっくり返っていた。今の衝撃で一緒に吹き飛んだんだろうか、目の前には教室で整列していたはずの机が転がっている。
(なん……だ?爆発でもしたのか…!?)
震える右腕を支えにどうにか頭を持ち上げると、散らかった教室の奥に大きな白い板が落ちているのが見える。見事にひん曲がっているが見間違えじゃなければ、廊下と教室を繋ぐドアだったはずだ。……さっきまで俺たちの背中側にあったはずなのに。
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