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ガチガチうるさくぶつかり合う歯の根をこじ開けて、思い切り息を吸い込んだ。
「い、犬飼、動け!とにかく動くんだ、机の下とか―――」
「…日野、急に大きくなったな。」
「……………あ?」
さっきの化物の声に比べたら随分と小さな声だったけど、犬飼の呟きはやけにハッキリと耳に入った。しかしリスニングは完ぺきだった割に、俺の脳は言葉を理解することが出来なかった。
「お前が遠くに吹き飛んでいったような気がしたが…大した怪我も無さそうで良かった。」
『グググガガガ…!!』
「…なんだ、まだ怒ってるのか。逃げろと言った件ならさっき謝っただろう。それよりあまり大きな声を出すな、奴に見つかる。」
『ギャギャギャグボェ!!!』
変な体勢のまま固まってしまったから、乗っていた椅子がぐらりと揺れる。慌てて我に返り、なんとか転倒は免れたけど……どっちみち眩暈がしてきたので、今にもひっくり返りそうだ。
ねえ、誰か教えてくれ―――なんでこいつら会話してんの??
「ちょっ……と、どっから突っ込んだらいいか分かんねーけど犬飼君、ソイツが『奴』だからね!?もうとっくに巨大な目玉に見つめられてるからね!?」
『グギャオオオオオ!!』
「やる気十分なのは分かったから日野、静かにしろ!あとお前ちょっとネトネトしてるが、やはり怪我を…?吹き飛んだときに頭でも打ってたら大変だぞ。」
「それはお前だぁーーー!!そいつのどこが俺に見えるって!?眼鏡曇ってんじゃねーの!?……ハッ、そうか眼鏡…!!」
犬飼の眼鏡はいま俺が持ってるじゃねーか。ということは、今の犬飼は死ぬほど目が悪い般若状態ということだ。
…以前スズメに聞いたことがある。眼鏡をはずした犬飼が教室を掃除していた時、備品のセロハンテープをカタツムリだと勘違いし、優しく自然に帰そうとしていたらしい。普段の明るい教室ですらそうなるってことは、こんな暗い場所じゃ余計に何も見えてないはずだ。……たぶん、頭のすぐ真上にあるバスケットボール大の目玉さえ認識出来ていない。
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