歌と女

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『・・・僕なら君の願いを叶えられるよ』 そう言って僕の目の前に現れたのが十時(ととき)さんだった。 僕ははじめ、十時(ととき)さんを疑っていた。 そんな願い、叶えられないって・・・。 そんな願い、叶えてくれるはずがないって・・・。 第一、僕はお金を持っていなかった。 何をするのにもお金は必要だ。 『世の中はお金が全てなのよ』 それは紗江子(さえこ)さんの口癖だった。 だから僕もそう思っていた。 『世の中はお金が全て』 うん。 なるほど・・・。 僕はお金を持っていないから駄目なんだ。 だから僕の願いは叶わない・・・。 けれど、僕は願っていた。 ずっと・・・ずっと・・・。 『現状(いま)から逃れたい』 と・・・。 『お金? そんなモノに興味はないよ』 『お金が全て』と思っていた僕に十時(ととき)さんのその言葉は衝撃的だった。 じゃあ何と取り引きをするのだろう? そんなことを思いながら僕は首を傾げ、十時(ととき)さんを注視していた。 『もし、本当に今の現状から逃れたいと思うのなら君の『時間』を僕に頂戴』 僕は十時(ととき)さんと『時間』の取り引きをして今に至っている。 僕は今、鳥籠の外にいる。
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