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「欲しいものはありません。必要なものは全て十時(ととき)さんが与えてくださっていますし」 僕はそう言って自然と微笑んでいた。 欲しいものは本当に何もない。 今、十時(ととき)さんが与えてくださっているものだけで僕は十分満ち足りている。 「・・・本当に?」 「はい! 本当に!」 不安そうに僕を振り返られた十時(ととき)さんに僕はそうお答えして大きく頷いた。 けれど、僕のその返事を聞いても僕のその様子を見られても十時(ととき)さんのお顔から不安そうな感じは消えなかった。 だから僕は言葉を続けた。 「住む場所に食べるもの。着るものに自由な時間。言葉を交わしてくれる人に名前を呼んでくれる人・・・。それ以上に必要なものは僕には何もないんです。僕が欲しかったものは今、全て・・・!?」 僕は最後まで続けたかった言葉を十時(ととき)さんに止められた。
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