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「あまりごちゃごちゃ考えるな。大事ない。もう鳥籠は桜が壊した。お前はもう、鳥籠の外だ。翼を広げ、風を読み、羽ばたき、高く舞い上がれ。そして、今は思うままに空を駆け、高らかに謳え」
パタリパタリと黒いだけの空間に生暖かい滴が落ちた。
嗚呼・・・まただ・・・。
僕は無情に溢れてくる涙を両手の手の甲で乱暴に拭いながら雨月さんに『ごめんなさい』と何度も謝っていた。
泣くつもりなんてなかったし、泣いちゃいけない。
泣くことはいけないことで怒られることだから・・・。
このままじゃ僕は・・・雨月さんに嫌われちゃう・・・。
そんなこと、嫌なのに・・・。
嫌われることは怖い・・・。
一人はもっと怖い・・・。
だから・・・だから・・・。
「泣きたいならば泣けばいい。誰もお前を責めはしない。それに、お前が泣いたからと言って俺はお前を嫌いになどなりはしない。何も大事ない。雪は今までよく一人で堪えた」
雨月さんの言葉が雨月さんの腕が雨月さんの温もりが雨月さんの優しさが僕の心と身体をそっと包んでくれた。
温かい・・・。
雨月さんはいつの間にか屈んで僕を抱きしめてくれていた。
僕はそんな雨月さんの背中に手を回していた。
ぎゅっとして・・・いいのだろうか?
僕は戸惑っていた。
喉の奥がジリジリと焼かれるように痛かった。
声を出して泣きたい・・・。
けれど・・・。
「もう、己に嘘を吐く必要など、どこにもない。桜がお前に命じたことを忘れたか?」
そうおっしゃられた雨月さんの声は穏やかだった。
そう思うと同時に雨月さんと十時さんはどことなく似ていると僕は思った。
雨月さんと十時さんのお顔は似ていない。
けれど、お二人はどこか似ている。
その似ているところはどこかと訊ねられると困ってしまうけれど、どこかお二人は似ているのだ。
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