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「十時さんが・・・僕に・・・命じられたこと?」
僕の声は震えていて掠れていた。
それでも僕の声はちゃんと雨月さんに届いた。
「そうだ。お前は桜と『取り引き』をしただろう? お前は『現状からの逃避』を望んだはずだ。桜はそれを叶える代わりにお前に何を望んだ?」
十時さんが僕に望んだモノ・・・それは・・・。
「僕の持っている『時間』・・・」
僕は僕の持っている『時間』で『取り引き』ができるなんて思ってもいなかった。
そんなモノ、いくらだって差し出す。
この『現状』から逃れられるのなら・・・。
と、僕は思った。
「本来の桜なら・・・そんな『コウガク』な請求はしない」
ポツリと雨月さんが呟かれた。
『コウガク』?
『コウガク』って・・・何だろう?
雨月さんは僕をゆっくりと手放されるとゆらりとその場に立ち上がられて黒いだけの空間にまた右手の人差し指を這わされた。
雨月さんのその指先から生まれる赤い文字に僕は食い入っていた。
不思議だ。
なぜ、雨月さんの指先からは文字が生まれるのだろう?
そして、なぜ、その文字が宙に浮き、見えるのだろう?
そう言えば・・・萩月さんも雨月さんと同じように宙に文字を書かれていたっけ・・・。
ただ、萩月さんが宙に書かれる文字はパチパチと燃える火だったけれど・・・。
《高・額》
黒いだけの空間にぼんやりと赤く、浮いた文字はそうだった。
高額・・・。
僕は心の内で何度もその文字を繰り返し書き、何度も読み上げた。
高額・・・。
うん。
覚えた。
けれど、僕はその意味を知らない。
知らないことは・・・。
「雨月さん」
僕は立ち上がったままその文字を見つめられている雨月さんを見上げ、そうお声をお掛けした。
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