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「桜がお前をそこまで思うのは過去の自分とお前とを重ねているからだろう」
「僕に・・・過去の自分を重ねる?」
僕はテクテクと雨月さんの横を歩きながら雨月さんにそうお訊ねし返していた。
どうして十時さんが僕に過去の自分を重ねられているのだろう?
「桜は・・・」
雨月さんはそこで言葉を句切られると大きく、深い溜め息を吐き出された。
まるでそれは心を鎮めるかのように・・・。
「桜は産まれてすぐに・・・捨てられた」
「・・・え?」
雨月さんのそのお言葉に僕の足はピタリと止められた。
僕は何度も動けと僕の足に命じた。
なのに僕の足はピクリとも動かない。
これじゃ、さっきと同じだ・・・。
さっき・・・それはあの女性と視線が合わさった時のこと・・・。
その時のその女性の淀んだ目を思い出して僕はぶわっと鳥肌立った。
怖い・・・。
あの目は・・・あの煙は・・・よくない・・・。
僕はもう一人の僕にそう注意した。
『わかっているよ』ともう一人の僕は頷いた。
わかっているよ・・・。
けれど、僕は招いてしまう・・・。
僕は招いてしまうんだ・・・。
いいモノも悪いモノも・・・。
だから、また・・・きっと・・・。
「・・・雪」
雨月さんの声が聞こえた。
まただと僕は下唇を噛みしめた。
また僕は物思いにふけ入ってしまっていた。
それに今は僕のことより十時さんのことだ。
十時さんが捨てられた?
それも産まれてすぐに?
・・・どうして?
「どうしてですか?」
僕は足の動かなくなってしまったその場所に立ち止まったまま雨月さんにお訊ねした。
雨月さんは僕から少し離れたところに立ち止まられて僕を振り返り、僕にその目を向けてくれていた。
僅かに紫色を帯びた雨月さんのその目は本当に綺麗で強い力を僕に感じさせていた。
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