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「大事ない」
雨月さんは柔らかな表情でそうおっしゃってくださると僕の右手をそっと握られてその握った僕の手を優しく引き、ゆっくりと前へと歩きだされて、そんな雨月さんに僕は素直に従っていた。
「お前が先ほど逢ったあの女はただの人間だ」
ただの・・・人間・・・。
その言葉に僕は違和感を感じてしまっていた。
雨月さんがただの人ではないことは知っている。
そして、萩月さんもただの人ではないし、大志さんも十時さんさえもただの人ではない・・・。
けれど、雨月さんも萩月さんも大志さんも十時さんも怖くない・・・。
けれど、あの女性は・・・。
「・・・『フ』の念が・・・渦巻いていたな」
『フ』・・・の・・・念?
僕はまた知らないその言葉に戸惑った。
僕は知らないことが多い。
ううん。
違う・・・。
僕は知らないことばかりだ・・・。
「あの・・・雨月さん。『フ』って・・・なんですか?」
僕は戸惑いつつも雨月さんにお訊ねしていた。
知らないことは・・・ちゃんとお訊ねしないと・・・。
『わからないこと、知らないことはそのままにしてちゃ駄目なんです。知ることは怖いこともあります。けれどね、雪。知らないことは知ることよりも・・・』
十時さんはそう僕に教えてくれた。
なるほどと僕は思った。
そして、わからないこと、知らないことはそのままにせず、ちゃんとお訊ねしようと思った。
けれど、僕はまだ躊躇っている・・・。
僕はお訊ねすることが・・・。
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