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「雪。それはお前の思い込みだ」
思い込み?
僕は小首を傾げて雨月さんをチラリとだけ見つめ見た。
雨月さんはうっすらとその整った顔に笑みを浮かべられていた。
「俺が先の言葉・・・『わからないこと、知らないことはそのままにしていてはいけない。知ることは恐ろしい。だが、知らぬことは知ることよりも恐ろしい』と言ったのは『心読』をして言ったものじゃない」
「え? そう・・・なんですか?」
雨月さんのその言葉に僕はキョトンとさせられた。
それと同時に僕は恥ずかしくなってしまって少しだけ俯いた。
俯いた先では黒一色の地面があるだけだった・・・。
なんだか歩いているのにちっとも前に進んでいる気がしない。
それどころか下へ下へと落ちていってしまっているような感覚さえあるから気持ちが悪い・・・。
何よりも気持ちが悪いと思うのは僕の勝手な思い込みのせいだ。
僕は馬鹿だ。
勝手にそうだと思い込んでいた。
それはきっといけないことで僕は雨月さんを嫌な気持ちにさせてしまったはずだ。
僕はまた、悪いことをしてしまった。
「あの・・・雨月さん・・・ごめんなさ・・・」
「謝るな」
そう言われた雨月さんの声は柔らかかった。
それに僕は驚いて俯けていた顔を押し上げて雨月さんを仰ぎ見た。
仰ぎ見た雨月さんは僕に目を向けてくださっていた。
そして、雨月さんのその眼差しは僕を嫌がったりしているものではなく、優しいものだった。
「大事ないと先ほどから言っている。だからそう謝るな」
「・・・はい。あの・・・ごめ・・・あ・・・」
僕は『ごめんなさい』と言いかけた口を片手で慌てて塞ぎ、恥ずかしさで熱くなった顔をまた俯けた。
僕は『ごめんなさい』と言うのが癖なんだとこの時、気づかされた。
それさえもまた『ごめんなさい』だった。
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