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「本当に・・・小さい頃の桜を思い出す」
雨月さんはポツリとそうおっしゃられると僕の手を引かれ『行こう』と僕を促された。
それに僕は『はい』とお答えして意識して小さな咳をしていた。
嗚呼・・・本当に恥ずかしい・・・。
「さて。問いの答えを続けようか」
雨月さんの言葉に僕はコクリと頷いて雨月さんの言葉を静かに待った。
「あの女の回りにあった煙は『フ』の念の塊だ。『フ』とは・・・」
雨月さんは歩かれながら右手の人差し指を宙にかざされるとそのままそこに文字を書かれていかれていた。
ぐちゃぐちゃにならないんだ・・・。
僕はそんなことを思いながら雨月さんが歩かれながら書かれたその宙に浮く赤い文字をじっと見つめていた。
宙に浮くその赤い文字はゆらゆらと僕たちのあとを付いてきていたけれど、ゆっくりと赤い色が抜けていつの間にか消えてしまっていた。
僕は消えてしまったその文字を何度も繰り返し心の内で書いていた。
《負》
『フ』と言う字はそうだった。
「『負』とは簡単に言えばよくないモノだ。視えただろう? あの女を呑み込むような黒い煙が」
「・・・はい」
僕はあの女性の回りにあった黒いドロドロとした煙を思い出して軽い吐き気に襲われた。
気持ちが悪い・・・。
吐き戻すほどではないけれど・・・。
「雪。お前はこれからどんどん視たくないモノが視えるようになるだろう。そして、聞こえるようにもなるだろう・・・」
僕は黙って頷くことしかできなかった。
僕は一体・・・どうしてしまったのだろう?
僕の『眠っていた力』って?
僕って?
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