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「『招き』は招きもするが招かれもする。雪。お前はあの女の念に招かれたんだろう」
「念に・・・ですか? どうして?」
僕の質問に雨月さんは苦い笑みを滲まされ、その場に立ち止まられた。
だから僕もその場に立ち止まった。
「雪。お前は桜の役に立ちたいと思っているんじゃないのか?」
雨月さんのその質問に僕は『はい!』とお答えして笑んでいた。
それに雨月さんは苦い笑みのまま頷いて言葉を続けてくれた。
「その思いが女の念に触れ、招かれたんだろう。桜は【逃がし屋】だ。【逃がし屋】の桜の仕事は『依頼主を逃げたいモノから逃がす』こと。あの女には『逃げたいモノ』がある。お前はあの女の念に招かれることで桜とあの女の橋渡しになったんだろう」
僕は雨月さんのおっしゃられていることの意味がよくわからなくて困っていた。
そんな僕の心情を察してか雨月さんは『難しいな』と呟かれた。
それに今度は僕が苦い笑みを滲ませることとなった。
「近いうちにあの女が桜の自宅を訪れるだろう。・・・さ。出口だ」
雨月さんの言葉に僕は『え?』と声を漏らし、雨月さんから目をそらして前の方へと目を向けた。
・・・眩しい。
僕はいつの間にか射してきていた眩しい光に目を細め、再び雨月さんへと目を向けた。
「俺と逢ったことは桜には内緒だぞ?」
雨月さんはどこかイタズラっぽい笑みを浮かべてそうおっしゃられると僕の手をそっと離された。
雨月さんから離された僕の手は少し寒かったけれど、僕は『はい!』と雨月さんにお答えして深く頭を下げていた。
「雨月さん。ありがとうございました!」
「大事ない。気をつけて帰れ。雪」
雨月さんのお言葉に僕は『はい!』とお答えして頭を上げた。
「あ・・・れ?」
僕はいつの間にか目的地であるお店の前に立っていて先ほどまで側に居られた雨月さんのそのお姿は消えていた・・・。
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