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「・・・雪」
十時さんの優しい声が聞こえた。
なのに僕は返事をお返しすることができなかった。
声が出ない・・・。
喉の奥は焼けるように痛み、鼻でも口でもうまく呼吸をすることはかなわなかった。
僕の目は潤み、霞んでまだ少し痣の残る身体はガタガタと震えていた。
そんな僕を十時さんはどう思っているのだろう?
そんな僕を十時さんはどう見ているのだろう?
知りたい・・・。
けれど、知りたくない・・・。
もし、十時さんが僕を嫌っていたら僕は・・・。
「雪。雪は何も悪くない。だから・・・少し落ち着いて?」
十時さんはそう言われると僕を抱きしめて僕の背中をポンポンとしてくれた。
それさえも僕は怖いと感じてしまう・・・。
これが夢だったら・・・どうしよう・・・。
この幸せが壊れてしまったら・・・どうしよう・・・。
こわい・・・怖い・・・コワイ・・・。
「大丈夫。大丈夫だよ。雪・・・」
十時さんはそう言われると僕を離されて淡く微笑まれた。
それに僕は黙って頷いて両手の手の甲でゴシゴシと涙を拭った。
「雪。そうやって目元をゴシゴシ擦るのはよくないよ。ちょっとじっとして?」
十時さんの命令に僕は大人しく従ってじっとしていた。
十時さんは着物の胸元から白い布を出されるとそれで僕の目元を優しく拭ってくれた。
「・・・うん。これでいい。さ。中に入ろう」
十時さんはその白い布を着物の胸元にもどされるとスクリと立ち上がられて珍しく母屋の方へと向かわれた。
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