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「十時さん。お待たせ致しました」
僕は十時さん宅の母屋にある僕のお部屋に入りつつ、そう十時さんにお声をお掛けした。
僕は今、十時さん宅の母屋の広い一室をお借りして暮らしている。
僕は十時さんと『取り引き』をした。
僕は『現状から逃げること』を望んだ。
そんなこと、僕は叶わないと思っていた。
けれど、僕の願いは叶った。
十時さんが僕の願いを叶えてくれた。
僕の持っている『時間』と引き換えに・・・。
僕は毎日、十時さんの三食のお食事を作り、おやつを用意し、お掃除をして日々を過ごしている。
僕の今の毎日は本当にゆっくりと過ぎていく。
そして、僕は今、本当に幸せだ。
服も食事も住むところもしっかりと与えられ謂われない暴力も今はない。
嗚呼・・・僕は本当に幸せモノだ。
「ごめんね。雪。疲れているのに・・・」
そう僕を気遣ってくださった十時さんはお部屋の中央辺りに座り、先ほどの茶色い細い花瓶にオレンジ色のいい匂いのするお花を生けられていた。
僕は『大丈夫です!』とお答えして十時さんのおやつを載せているお盆を手に十時さんの居られるお部屋の中央辺りへと向かった。
「おやつ、わかったみたいでよかった」
そう言われた十時さんは僕の持っているお盆に目を向けられて少しだけ不思議そうなお顔をされた。
それに僕は不安になってしまった。
また、僕は失敗をしてしまったのかな?
そんな不安・・・。
「雪の分は?」
「え?」
十時さんのお言葉に今度は僕が不思議そうな顔をすることとなってしまった。
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