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その黒い煙は女性の身体を包み込むように漂っていてよくない感じがした。
嫌だ・・・。
そう心の内で思うのと同時に僕はその女性と視線が合わさってしまった。
嫌だ・・・嫌だ・・・。
そう思うのに僕の身体はピクリとも動かない。
それなのにその女性は僕にゆらゆらと近づいて来る。
淀んだ目をして淀んだ煙を纏って・・・。
嫌だ・・・嫌だ・・・嫌だっ!!
そう強く思うと僕の胸元からピキッと砕けるような弾けるようなそんな音が聞こえてきた。
それと同時にぐいっと手を引かれる感じがあった。
僕は反射的に目を瞑ってしまっていた。
怖い、怖い、怖い・・・。
「早々に役に立ったな」
聞き覚えのあるその声に僕はハッとして目を開けた。
目を開けると黒い布地の着物の袖が見えた。
「大事はなさそうだな。雪」
僕はその言葉にそろそろと顔を押し上げた。
押し上げ、見つめ見たその先で僅かに紫色を帯びた目と視線が合わさった。
その僅かに紫色を帯びた目の中心の部分は猫や蛇のようにシュッと縦になっていた。
「雨月さん!」
僕はそう言って雨月さんに咄嗟に飛び付いたのだけれど、それを雨月さんは拒むことなく受け入れてくださった。
「どうした? 怖かったのか?」
雨月さんのその言葉に僕は素直に『はい』と答え、先程のことを思い出して震えていた。
怖かった・・・。
しかし、あの女性は・・・一体・・・。
「雪。お前の目・・・何か視えるか?」
雨月さんのその質問に僕はコクリと頷いた。
視える・・・。
この間までは視えていなかったモノが今は視える・・・。
僕の目は一体・・・どうしてしまったのだろう?
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