歌と女

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「何も案ずることはない。眠っていた『力』が目覚めだしただけのことだ」 雨月(うげつ)さんはそうおっしゃられると僕の左目の目の下を右手の親指で撫でられフッと微笑まれていた。 眠っていた『力』・・・。 僕は心の内でそう呟いて重たい気持ちにさせられていた。 僕には『招く力』があると十時(ととき)さんと萩月(はぎづき)さんから教えられた。 僕のその『力』は幸せを招いたり、僕が欲しがっているモノを招く・・・と。 けれど、時には僕の望んでいないモノをも招くらしい・・・。 それは不幸であったり、悪い人であったり、人ではない何か恐ろしいモノであったり・・・。 だから、きっと・・・今回も・・・。 「あの女性も・・・僕が・・・招いてしまったのでしょうか?」 僕は雨月(うげつ)さんにそう訊ねつつ、泣きだしたくなってしまっていた。 怖かった・・・。 身体が動かないほどに・・・。 「・・・(せつ)が招きもしただろうが招かれもしたのだろう」 「え? 僕が・・・招かれた・・・のですか?」 僕の質問に雨月(うげつ)さんはコクリと頷かれると辺りをじっと見回されていた。 辺りには何もない。 辺りにあるのはただ、黒いだけの空間だ・・・。 けれど、不思議なことにその黒い空間の中でも雨月さんの姿はちゃんと見えた。 僕の手も・・・うん。 ちゃんと見えている。 けれど、辺りは真っ暗・・・。 それは真っ暗なところに閉じ込められているようなそんな感覚だった。 その感覚はまるで・・・。 「・・・(せつ)雨月(うげつ)さんのその呼び掛けに僕はハッとさせられた。 僕はまた、物思いにふけ入りそうになっていた・・・。 「鳥籠の中が・・・恋しいか?」 鳥籠・・・。 僕はその言葉にゾクリとさせられた。 それと同時に泣き声が聞こえた気がした。 何かを叫ぶ声も何かが壊れる音も・・・。 怖い・・・。 痛い・・・。 嫌だ・・・。 辛い・・・。 嗚呼・・・現状(いま)から逃げ出したい・・・。
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