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黒い煙と女
「ご馳走さまでした。今日も美味しかったです」
十時さんはいつもと同じようにそうおっしゃってくださると微かだけれど確かに微笑まれて空になった食器たちに目を向け、お食事前と同じように丁寧に手を合わされた。
それが僕はどうしようもなく嬉しくていつもへにゃりと笑ってしまう。
十時さんはいつもお食事前には必ず『頂きます』とおっしゃられてお食事後には『ご馳走さまでした』と必ず言われる。
そして、最近では味の感想も毎回、僕に伝えてくださる。
その度に僕は幸せな気持ちになって『もっと十時さんに喜んでもらいたい。そして、もっと褒められたい』と思っている。
「お味噌汁、本当に美味しかったです。残りがあるのならお昼にも頂きたいな」
「あ。ごめんなさい。残りはなくて・・・」
僕は小さな声でそう言って僕が食べて空になったお汁椀を見つめ見た。
もっと作っておくべきだった・・・。
それか僕はあとで一人で食事を取ればよかった・・・。
そんな悔しい思いがじわりじわりと沸き上がる。
僕は十時さんの提案で一緒にお食事をするようになっていた。
十時さんからその提案は本当に嬉しかった。
けれど、こんなことがあるとしゅんとなってしまう。
あ・・・。
けれど・・・。
僕はそう思ってすぐに顔を上げた。
「あの・・・三人分お作りしたのでその分は?」
今朝は十時さんと僕の分に加えてもうお一人分お作りしている。
その分の残りならまだある・・・。
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