ありがと

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 季節が巡り、柔らかな草花が枯れてしまった頃、その子は言いました。 「もう咲いているお花はないし、明日からはもう遊べない」  話せるだけでも楽しいと縋る私に、その子は付け加えました。 「代わりに、大切なものが埋まっている場所を教えてあげる。でも、掘り返すのは明日ね?」  その子は、そう言って歩き始め、小さな川の側で立ち止まりました。 「この柳の下。川の方ね」  そう言って、あの子は木の根本を指差しました。そして、私がしゃがみ込んで根本を見ている内に、あの子は姿を消してしまったのです。  悲しみと怒りを覚えながらも、私はあの子が示した場所を次の日に掘り返しました。夜半の雨で土は柔らかく、幼児でさえ容易に土を掘り返せました。  腕がすっぽりと埋まるまで掘った頃、何か堅いものに当たりました。私はそれがあの子の大切なものだろうと、丁寧に土を掘り続けました。 「何をしているんだい?」  あの子の大切なものを掘り出している最中、釣り竿を持った人が話し掛けてきました。その人は、私が掘った穴を見るなり声を上げ、何処かに行ってしましました。  私は、その人が何処へ向かったかも気に留めず、穴掘りを続けました。すると、その人はおまわりさんを連れて戻ってきたのです。おまわりさんも私が掘った穴を見、それから離れる様に言ってきました。  私は、あの子のことを話しますが、おまわりさん達は困った顔をして言いました。 「この辺りに、その位の年の子は君しか居ないんだよ」  おまわりさんの目配せで、釣り人は私を抱き上げ集会所まで連れて行きました。暫くしてから色々とおまわりさんに話を聞かれましたが、内容までは覚えていません。  ただ、時間が経った後でも確かなことは、過疎化の進んだ村に子供は少なく、私が掘り返したのは子供の遺骨であったと言うことだけです。
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