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『積極的が吉』
いつもチェックするケイタイ占いは、佐藤杏奈にお告げをもたらしてくれた。
だが、いつもいつも何もない毎日が過ぎていくばかりだが、杏奈は全くといっていいほどに動じない。
―積極的に声をかけるんだっ!―
登校中の杏奈は強く心の中で叫んだ。
そして杏奈の目の前に、意中の相手である三枝翔樹の後ろ姿が見えた。
「三枝、おはよう!」
杏奈は翔樹に顔を見せることなく速足に通り過ぎようとした。
「おはよう、佐藤… …って、速いな…」
杏奈はこのようにして常にチャンスを逸しているのだ。
これだと、積極的だが決してそうではない。
勇気を振り絞り、ただの挨拶だが声をかけたのなら、そのままもうひと言くらい話でもすればいいのだが、それも思い浮かばないほど、緊張し、胸がときめいているのだ。
まさに舞い上がっているといった状態だ。
しかも今年はクラスが違うので、気恥ずかしい思いで一杯なのだ。
「何か言いたいこと、あるんだろ?」
翔樹の顔が目の前に現れ、杏奈は「キャッ」と小さく叫び声を上げた。
杏奈はゆっくりと歩を緩め、翔樹の視界から外れるようにしてそっぽを向いた。
「いつも挨拶なんかしてくれないのに、今日は声をかけてきた。不自然だよな。何日か前にも、その前にもあった。 …あまりケイタイ占いは信じない方がいいんじゃない? あれって、繰り返して使っているだけだぞ。オレも好きだからなにげなく見ていたら、佐藤の様子がおかしい日が気になっていたんだよな」
杏奈は見透かされたと思い、恥ずかしくなったが態度には表さなかった。
ただただ、顔が火照っていくばかりだ。
「今日は積極的に、だろ? 積極的に話をしてもらいながら、行こうか」
翔樹はゆっくりと歩き始め、杏奈はその後を追うようにして歩を進めた。
杏奈は時々翔樹を覗き見ては、「…あのぉー…」を繰り返すばかりだ。
だが翔樹は杏奈に視線を返すだけで何も言わなかった。
今日の翔樹の占いの吉は、『何事も程々に』だった。
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