1話

3/9
前へ
/9ページ
次へ
 幼き頃の記憶が蘇る。  俺の親父は厳しかった。小さい頃から畑仕事を手伝わされる毎日。飯の準備や風呂掃除も全部俺がやってきた。  周りの友達が携帯電話を持つようになった頃、俺も欲しいとお願いしたら、自分で稼いで自分で買えと言われた。  契約だけは親父にしてもらい、俺は近所のおじさんのとこでバイトをさせてもらった。  あの時の俺は、なんで俺だけがこんな目にあわなくちゃいけないんだと、この家に生まれてきたことを恨んだ。  それでも母さんだけは優しかった。俺が親父に叱られた後、いつも黙って抱きしめてくれた。  夜遅くまで勉強していた日だって、夜食を作ってくれたりした。  朝早くから夜遅くまで働いているのに、いつも俺を気にかけてくれていた。  一回深呼吸をして、玄関を開ける。そして大きな声で「ただいま」と言うと奥から親父が出てきた。  久しぶりに見る親父は、皺が増え、少し痩せた気がする。    そして親父は俺を見るなり「母さんに手、合わしてこい」と言って、また奥へと消えていった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加