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その瞬間。
“うう……っ!”
自分が座る座敷の隅で、黒い影が移動しているのをはっきりと見てしまった。
生きた人間ではない。実体のない影だけが、自分の周りを動き回っている。
そのことに気づいた叔父は、再び目をきつく閉じると一心不乱にお経を唱え続けた。
“助けてください助けてください助けてください――”
仏壇へ――自分の先祖へ――必死にそう祈りながらひたすらお経を唱えていると、やがて室内の空気が変わったように軽くなりナニモノかの気配がなくなった。
お経を止め、恐る恐る振り返った部屋の中には何もおらず、普段と変わらない光景があるだけ。
“……何だったんだ、今のは?”
これまで、こんな怖い現象など遭遇したことなどなかったため、叔父はひどく困惑しその日の夜は電気を消して眠ることができなかったという。
この日以来、叔父は夜にお経を唱えるのを止めた。
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