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わしゃわしゃと頭を洗う。
頭を洗う時はいつも目を閉じる。シャンプーが目に入るのが子どもの時から嫌だった。
視界はまっくら。お湯がもったいないからバスルームはとても静か。消し忘れたテレビの音声がかすかに聞こえる程度だ。
だからこそ、
カタン。
思わず手を止めるくらい、その音はやけに大きく聞こえた。
距離からしてバスルームの扉が閉まった音だろう。
うちは歳食った中古の物件だ。建て付けが悪いから、ちゃんと扉が閉まっていない時がある。それが風に押されてはまり、カタンと音を鳴らす。
それだけに過ぎない――はずなのに。
タイミングが悪かった。視界が制限されているだけでこうも鋭敏に音を拾うものなのか。
わしゃわしゃと頭を洗う。
いやだな。早く終わらせたい。
めんどくさがって切らなかったから、髪は肩口まで伸びてしまった。言わずもがな時間がかかる。
根元を終え、中腹を終え、毛先を洗う。
途中で我慢できなくなって、毛先は明日しっかり洗うことにした。
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