3人が本棚に入れています
本棚に追加
高卒後、進学はせず就職に付いた亜玖留。
新社会人となり忙しい毎日を過ごした。
……未だに恋人を作らないままだった。
殺人者の男への想いは消えもしなければ薄れさえしなかった。
それどころか想いは強くなっていた。
この想いがある限り、恋人は作れない。
学生だった頃とは違い、今ではお給金を貰うようになったので自由に出来るお金がある。
そして、獄中結婚というものも知った。
普通に考えたら両親は反対するだろう。
今はまだ未成年だが、成人になったら結婚に親の許可はいらない。
相手さえ応じてくれたら結婚が成立する。
亜玖留は市役所で婚姻届を貰った。そんな自分の行動を馬鹿げてると自嘲した。
そして、夏になり、事件があった日に仕事で休暇をもらい、殺人者の男が住んでいた地、事件があった地に行くことにした。
ニュースを見たあの日のように、今日も良く晴れていた。
熱中症対策に飲み物と日傘を持っていった。
午前に出発したが、電車を乗り継ぎ、夕方になり辿り着いた。
勿論、そこに彼が居る訳でもなければ彼の家族すら居ない。
それでも、彼が生活した場所に行ってみたかった。
町は、亜玖留が住む地域と同じ位田舎寄りだった。
空き地が多く、畑もあった。そして、野良かは分からないが猫も多い。
彼が殺人に至った隣人とのトラブルは野良猫への餌やりだった事を思い出した。
あの時に、彼から餌を貰った猫は此処に居るか?
いや、野良猫の平均寿命が三年程の事を思えば、もう居ないだろう。
彼が住んでいた家を見つけた。
ニュースで見た時より荒れていた。
割られたままの窓を見上げた。鋭く割れたガラスの先が夕日で光っていた。
亜玖留は身体の向きを変え、被害者の家の方を向いた。
亡くなった老夫婦の孫も当時は住んでいたが、今は誰も住んでいない様だった。
亜玖留は心が重くなり、手を合わせた。
空き家だからか野良猫が住み着いている。
亜玖留は泣きそうになったのを誤魔化すように、猫に向かって笑って見せた。
もう遅いので適当にホテルに泊まり、翌日の早朝に電車に乗り帰路についた。
車窓から流れる風景を見つめながら亜玖留は思った。
次は彼本人に逢いたい。
でも、今では規制が厳しく死刑囚に逢うのはほぼ不可能である。
釈放される事も無いだろう。
最初のコメントを投稿しよう!