恋を知らなかった

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 想いだけを募らせながら、季節は冬になった。  何気なく見ていたテレビにニュース速報が流れた。  遂に彼が、死刑執行された。  そのニュースを見て衝撃が走り、身体が動かなくなる。  亜玖留は心が凍りつく思いをした。  外は静に、雪が積もっていた。  静に、熱い涙が流れた。  でも、亜玖留には、泣く以外に何も出来なかった。  これは失恋?  違う。亜玖留は思いを遂げることも出来なかったし相手は亜玖留の存在すら知らないまま、死んでしまった。  振られることすら叶わなかった。  前に貰った婚姻届用紙が抽斗(ひきだし)から出てきた。それを見て、無表情のまま涙を流した。  涙に濡れた婚姻届を握りしめ、ぐしゃぐしゃにしてゴミ箱に捨てた。  亜玖留は、自分が空っぽになったのを感じた。  悲しみが大きすぎたのか、笑うことも怒ることも無くなった。  食欲すら無くて夜も寝付けない。  鬱症状と周りから判断され、仕事も辞めた。  家族は亜玖留を心配し、理由を訊いた。  亜玖留は少し考えて、答えた。 「好きな人が、死んでしまった」  好きな人が誰なのか、死因までは話せなかった。  母親は、亜玖留の頭を優しく撫でると言った。 「その人は天国で亜玖留を見守っているはずだから、元気を出してね」  亜玖留は思う。あり得ないと。  彼は亜玖留を知らないから見守る訳なんかないし、彼は天国なんかには行ってない。  地獄に堕ちてるだろう。
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