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目が覚めた。
首に違和感があり、知らない天井が見えた。
起き上がろうとするが、上手く身体が動かせなかった。
看護師が来て、此処は病院だと気付いた。
亜玖留は生きていた。
木の枝が折れて落ち、気を失ったまま倒れていたのを通り過がりの男性が見つけて救急車を呼んでくれたようだ。
雪が降る冬の日だから、発見が遅かったら命は助からなかったようだ。
病室に両親が駆け付け、叱咤しながら泣き亜玖留を抱きしめた。
亜玖留も泣いた。
大声を出して、泣いた。
こんなに感情を出したのは久しぶりだった。
自分の愚かさに、両親への申し訳なさに、生きていた事の喜びに、泣いた。
生きている。
母親は、亜玖留は好きな人の後追い自殺を図ったと思っていた。
「お願いだから、生きて」
弱々しくそう言った母に、亜玖留は言った。
「私、恋、ちゃんと出来るかな?」
母親は優しく笑い、亜玖留の頭を撫でて言った。
「出来るんじゃない?生きていれば」
暫くしてこの病室に見知らぬ男性が遠慮がちに入ってきた。
両親が深々と頭を下げ、涙を浮かべながらこの男性に何度もお礼を言った。
この男性が倒れていた亜玖留を見つけて救急車を呼んでくれたと教えてくれた。見知らぬ人なのに亜玖留を心配して付き添ってまでくれた。
そして、この男性が亜玖留を発見出来たのは、猫のお陰だと教えてくれた。
猫の鳴き声が矢鱈と聞こえたので気になって声の方に行ったら、亜玖留の周りに野良猫が集まっていたと言う。
猫が集まっていたのは、あの猫缶がコートに付着していたからだった。
そんな偶然が、亜玖留の命を救った。
男性は優しく笑いかけてくれて、言った。
「心配してくれるご両親が居るのだから、もうこんな事しないで下さいね」
亜玖留は男性の優しい目を見つめながらコクンと頷いた。
亜玖留の心は熱くなり、鼓動が高鳴るのを感じた。
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