恋を知らなかった

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 フラッシュを浴びながら警察に連行される男の姿。  黒い服を着た大柄な男だ。  耳を隠す位に伸びてる黒い髪はみだれ、顔はむさ苦しい髭が口元を覆っている。色黒で眉が濃く、仏頂面でカメラを睨む目は鋭い。大きな鼻に分厚い唇の口は苦虫をかみつぶしたように歪ませ、並びの悪い歯を覗かせた。肌が荒れている事も分かる。  惹きつける要素なんて無い、ただのむさ苦しい男の姿がそこにあった。  だけど、亜玖留はその男をテレビ越しに見て、鼓動が高鳴るのを感じた。心がざわつく。この男が何故かやたらと気になる。  亜玖留自信、何故こんな男が気になるか分からない。  亜玖留だって、容姿が端麗な男の方に好感を受けていた。この男の容姿に端麗さなんて無いし、何よりこの男は殺人者だ。  そんな男が、何故か無性に気になる。  前まで色んなニュースを見て、犯罪者を見てきた。そして、犯罪者を嫌悪していた。  でも今はテレビに映っている殺人者に心が引き寄せられているのを亜玖留は感じた。
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