恋を知らなかった

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 ニュースでは殺人の経緯など語られている。隣人と以前から家族ぐるみで仲が悪かったようで、この殺人をした男とその両親が、今回の被害者の家族とよく言い争いをしていたのを近所の人が目撃していた。  しかし男の両親がつい最近亡くなった。  でも、男は隣人と仲違いしたままだった。  そして、今回──野良猫の餌やりを注意された、という、些細と思える切っ掛けで隣の老夫婦とその娘の3人を殺害した。  刃物を使った残虐な方法で。  そして、この男がどんな人物かまで紹介された。  年齢は三十二、まだ独身で、友人などもいる様子も無く、無職。常に家に居て隣人と争っていたとある。  両親を亡くして天涯孤独になった無職男の犯行と。  ニュースは犯罪者等の人物像は印象を悪くするように批判的に、被害者は同情を誘う様に良かった面を強調して報道する傾向がある。  亜玖留自身、何故こんな男が気になるのか分からなかった。  やたらと気になるニュースの男。  殺人なんて絶対にいけないのに。  殺人を肯定なんかはしない。  でも、この男がとても気になる。  この男を想うと胸が締め付けられる思いがする。 「まさか……コレが恋?」  誰に言うでもない、つい漏れた独り言。  亜玖留は苦笑いをした。  まさか、ニュースで見た殺人者に惚れるなんて、思いもよらなかった。
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