恋を知らなかった

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 時は過ぎて高校生になった亜玖留。  癖毛を縮毛矯正したり、化粧を覚えて一重の目を二重に作ったりもして、見た目に華やかさを増させた。  新しい友人も出来てそれなりに高校性生活を楽しんでいるが、初恋の殺人者の男への想いは色あせることはなく、今でも想いを募らせていた。  世間では全く話題にならないが、ネットでは隣人殺人事件として情報が残っている。  亜玖留は其れを片っ端から調べた。  夜になると、あの男に殺された老夫婦とその娘が亜玖留に恨み言を言って現れる事が度々あった。  ニュースを調べるついでに見る被害者の姿。  寝入りばなの夢なのか、または幽霊かは分からない。  殺人者を愛した罪悪感が見せた幻か。  有名な大量殺人者には信奉者がいる事も亜玖留は知った。  狂ってる。けど他人の事は言えない。  ただ亜玖留は殺人行為を肯定してない。何故かは分からないが人物に惹かれただけだ。  殺人行為を認めたわけではない。罪悪感から逃れる為にもそう強く思っていた。  叶わない恋、背徳の恋。その悲愴感に陶酔しているのかと自分を冷静に分析したりもした。  悲劇のヒロインになりたかったか──否。亜玖留だって普通の恋愛に憧れた。  すれ違う恋人達を羨んだりした。  中学生の頃より、恋人がいるという友人が増えたし惚気話を聞かされたりもした。  羨ましかった。  しかし、殺人者の男を想う気持ちからか恋人を作ろうとは思えなかった。  どんな男よりも、恋した殺人者の方が勝ってしまった。  また、殺人者に想いを寄せたまま恋人を作ることに罪悪感もあった。  殺人者の男を想いながら恋人を作るなんて、恋人に失礼な気がした。  これが芸能人や二次元キャラなら罪悪感なんて無いのに、と亜玖留は思った。  そして彼氏を作る事は無く高校生活を終えた。
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