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命を選ぶと言うこと
水野医療センターは先の「院内爆破・復讐事件」の影響により患者が激減したが、少しずつ日常を取り戻していた。しかしそんな中でも問題の発端となった産婦人科は、以前は少子化を感じさせないほど賑わっていたが今はその時は半分ほどの患者になってしまった。実際には、事件によってセンターを去った産科医も多く、以前ほど積極的に受け入れられないという事情もあるが。そんな時、1人の若い女性が診察に訪れた。
「2か月ですね。順調ですよ」
産婦人科の部長代理・久保先生は笑顔でそういうが、その顔は若干ひきつっている。そして当の本人は久保のことを見ておらず下を向いていた。
「・・・真柄さん?」
「あ、はい。すみません」
女性は顔を上げてもどこか上の空だった。
「何か悩みがあったら相談してくださいね。」
「・・・先生」
「はい?」
「・・・私、産みたくありません」
「・・・え・・・あ、相手の男性は・・?」
「いません。もうどこにも」
久保は一瞬戸惑うが冷静を取り戻す。
「・・そう。それじゃあ、最後は君の決断によるね」
「・・・」
「ここに来る人は君も含めていろいろな事情がある。だから、その決断を否定はしない。ただ覚えておいてほしいのは、君のお腹にいるのは命だってこと。1人の人間だってこと」
「命・・・」
「そう」
「どうしても。どうしても許せない人が残したものなんです・・・。」
「・・・・」
「・・・ちょっと、考えます」
彼女はそう言って診察室を出ていった。久保はしばらく考えていたがやがて切り替えて次の患者を呼び込んだ。
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